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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)226号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(二) 成立に争いのない甲第二号証の二(本願補正明細書)によれば、本願発明の技術的課題、構成及び作用効果は、次のとおりであることが認められる。

本願発明は、値札その他の表示札を商品に取付ける場合、あるいは複数の物品を連結する場合に使用される係止片の集合体に関するものである(本願補正明細書第一頁第一八行ないし第二頁第二行)。

従来、係止片の集合体である係止片群は金型成形されるが、金型で成形される各係止片のキヤビテイとキヤビイテイの間に隔壁を設けなければそれぞれ独立した係止片を成形することはできないことから、成形後の各係止片間のピツチは、一般に肉厚のある頭部あるいは横棒の厚みに右隔壁の厚みを加えた長さになつていた。このため、一つの係止片群で五〇ないし六〇本程度の係止片しか得ることができず、取付具に係止片群を差し込む回数が増え作業性が良くなく、また、係止片群は一つの箱に多数個入れて保管しているので各係止片間のピツチが広いと係止片群どうしが絡み合つてしまうという欠点があり、さらには、係止片群の成形シヨツト数が増えるので係止片一本当たりの単価が高くなるという問題点があつた(同第三頁第一六行ないし第五頁第三行)。

本願発明は、前記各問題点を解決し、係止片群の各係止片の頭部や横棒どうしの隙間が実質的にない状態のピツチで配列した係止片群を提供し、係止片群間の絡みを防止し、さらに係止片群の取付具への差し込み回数を減らすことによつて係止片の取付け作業効率を向上させるとともに、各係止片の単価を下げることができる係止片群を提供することを目的とし(同第五頁第四行ないし第一四行)、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用した。

本願発明は、右構成を採用したことにより、係止片群は凸状あるいは凹状に曲がることが防止され、箱への充填が容易となり、商品価値が向上し、さらには取付機への装填操作性が容易となること、係止片群は非常にコンパクトになり、従来の係止片群と同一の長さのものにおいて二倍あるいはそれ以上の係止片が配列され、取扱上きわめて有利であり、またこのため成形の金型も小型化でき、金型を安価にするとともに、成形条件を厳格に制御することが可能となり、均質かつ良好な係止片群を安価に製造することができること、係止片群は実質的に接触状態で配列されているため他の係止片あるいは係止片群と入れ組んでもつれを生ずるということがないこと等の作用効果を奏するものである(同第一一頁第一四行ないし第一三頁第一〇行)。

(二) 他方、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例記載のものは、二つの目的物を一緒に固定するために、目的物内に挿入されるようにした形式の取付具に関するものであり(第一欄第三五行ないし第二欄第四行)、目的物と係合させられるように各々適合させられた複数の一緒に固定された取付具から成るクリツプであつて、該取付具の各々が目的物貫通部分と、拡大部分と、該両部分を結合している該貫通部分から伸長した細長い区分材と、該貫通部分を相互に並行的に間隔を置いて結合している切断され得る部材とから成るクリツプにおいて、該拡大部分間に介在してそれらを結合している容易に切断され得る固定部材を備え、該固定部材は該切断され得る部材より隣接する該拡大部分がねじり力により相互に手操作で分離され得る程充分に弱いことを特徴とするクリツプなる構成を有するものである(第一欄第二一行ないし第三三行)ことが認められる。

そして、引用例記載のものにおける「拡大部分」、「貫通部分」、「区分材」、「ロツド」及び「ネツク」は、それぞれ本願発明の「頭部」、「横棒」、「フイラメント部分」、「連結部材」及び「連結片」に相当し、本願発明と引用例記載のものは、いずれも頭部と、これに対応して離れた位置に配置した横棒とをフイラメント部分で連結した係止片を、その頭部の厚み方向に多数配列し、これらの係止片の各横棒を一本の連結部材上に連結片によりそれぞれ連結して合成樹脂で一体成形化した係止片群である点で一致していることは当事者間に争いのない事実である。

2 一致点の認定について

(一) 原告は、引用例には、「相隣る拡大部分どうしが、接着され、一体化された係止片群」が示されているにすぎず、「相隣る拡大部分どうしが、接着され、ほぼ接触された状態に配置されている係止片群」は開示ないし示唆されていない旨主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、引用例には、「第12図と第13図では、クリツプは従来技術のように、最初拡大部分を互いに接続しないで、別の手段で、拡大部分4の接面24にかなり弱い接着層32を塗布し、その後拡大部分を、第12図および第13図に示すように、移動し互いに係合させるようにしてある(第九欄第三五行ないし第四〇行)」と記載されていることが認められる。右事実及び前項で認定した当事者間に争いのない事実によれば、引用例記載のものは、本願発明と同じく合成樹脂で一体成形されたものであり、拡大部分はあらかじめ拡大部分間で間隔をあけて形成し、その後、拡大部分の接面に接着剤を塗布し、間隔のあいている多数の拡大部分の接面どうしが接着剤を介して接着するように拡大部分を移動させて接触した状態としたものであると認められる。してみると、引用例には、「相隣る拡大部分どうしが接着され、ほぼ接触した状態で配置されている」との技術的事項が開示されている。一方、本願発明は、相隣る頭部どうしがほぼ接触した状態に配置されているとの構成を有するものであることは前記1(一)で認定したとおりである。したがつて、「本願発明と引用例記載のものは、実質的に相隣る頭部どうしが、ほぼ接触した状態で配置されている点において両者は一致する」とした審決の認定に誤りはない。

(二) また、原告は、引用例記載のものは、側面視において頭部(=拡大部分)と横棒(=貫通部分)とは直線的かつシート状に配列されておらず、この点における審決の認定には誤りがある旨主張するので検討する。

引用例記載のものにおける相隣る拡大部分どうしは、接着され、ほぼ接触した状態となつていることは前記認定したとおりである。したがつて、係止片群において、この多数の拡大部分によつて構成される部分は、側面視において「平板状」すなわち「シート状」になつていると理解される。そして、引用例の特に第10図ないし第13図(別紙図面二参照)から見て、右拡大部分はその厚さが同じく成形されていることが認められ、右事実からして、多数の拡大部分により構成されるシート状部分は、直線的に構成されるものと解される。

次いで、引用例記載のものにおける貫通部分についてみるに、前掲甲第三号証によれば、引用例には、貫通部分については、前記2(一)で認定したところの拡大部分のように、あらかじめ間隔をあけて形成したものを、その後、相隣る貫通部分を移動して互いに係合すること、すなわち、貫通部分どうしを接着してほぼ接触させる旨の記載は認められない。右事実に引用例の第10図、第12図を併せ考えると、引用例記載のものの貫通部分どうし間には隙間が存在しているものと認められ、この多数の貫通部分によつて構成される部分は、側面視において「平板状」すなわち「シート状」になつているものと認めることはできない。

被告は、本願発明においては、頭部どうし及び横棒どうしがほぼ接触した状態にあることから、頭部と横棒とは直線的かつシート状に配列されることになるが、右にいう「ほぼ接触した状態」とはある程度の間隔を有する状態を含むから、「直線的かつシート状」とは直線かつシートに近い状態をも含むものである旨主張する。

しかしながら、本願発明は、従来の問題点を解決するべく、係止片群の各係止片の頭部や横棒どうしの間隔が実質的にない状態のピツチで配列した係止片群を提供することを目的として本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものであることは前記1(一)で認定したとおりであり、右事実からすると、本願発明においていうところの「ほぼ接触した状態」とは、頭部や横棒の間隔が実質的にない状態を意味するものであつて、ある程度の間隔を有する状態までも含むものとは解することはできない。したがつて「シート状」という意味も頭部どうし、横棒どうしが互いに隙間なく連なつた状態をいうものであると解するのが相当であり、被告の右主張は採用し得ない。

そして、貫通部分とは一体に成形され、区分材6で結合されている拡大部分は、前記2(一)で認定したとおり、あらかじめ間隔をあけて形成し、その後この拡大部分の接面に接着材を塗布し、間隔のあいている拡大部分の接面どうしが接着するように拡大部分を移動して互いにほぼ接触するようにするものであるが、この時、貫通部分はそのままの状態、すなわち、拡大部分のように移動して互いにほぼ接触させることをしないものであることは前記認定したとおりであるから、拡大部分を重ね合わせた厚さと、貫通部分のそれに相当する部分の厚さは異なり、貫通部分の厚さは、貫通部分間の間隔分だけ拡大部分のそれに比較して厚くなることになる。そうすると、拡大部分は互いに接着されているのでその位置は動かないが、合成樹脂で一体成形された係止片群の貫通部分は拡大部分の側を中心とする円弧状となるものと考えられる。してみると、多数の貫通部分によつて構成される部分は、側面視において「直線的」に配列されているとはいえず、むしろ「曲線状」に配列されているものであると解される。

一方、本願発明は、側面視において頭部(1)と横棒(2)とは直線的かつシート状に配列されるという構成を有するものであり、右構成要件を採用したことによつて、係止片群の包装箱への充填が容易となり、商品価値も向上し、取付機への装填操作等が容易となり、また係止片群をコンパクトにすることができる等の作用効果を奏するものであることは前記1(一)で認定したとおりである。

そうだとすれば、本願発明と引用例記載のものとは、横棒(=貫通部分)の側面視においてその構成を異にするものであり、その採用に伴つて得られる作用効果も格別の差異を生ずるものであるから、本願発明も引用例記載のものも、ともに側面視において横棒(=貫通部分)は直線的かつシート状に配列されている点において一致する、とした審決の認定は誤りである。

3 以上のとおりであるから、審決は、本願発明と引用例記載のものとの一致点の認定を誤つたものであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、その余の取消事由について判断するまでもなく、違法として、取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

頭部(1)と、これに対応して離れた位置に配置した横棒(2)とをフイラメント部分(3)で連結した係止片Tを、その頭部(1)の厚み方向に多数配列し、これらの係止片Tの各横棒(2)を一本の連結部材(4)上に連結片(5)によりそれぞれ連結して合成樹脂で一体成形した係止片群Aにおいて、前記頭部(1)の厚みtと横棒(2)の直径dとはほぼ同一に構成され、側面視において前記頭部(1)と横棒(2)とは直線的かつシート状に配列され、更に実質的に相隣る頭部(1)どうし、及び横棒(2)どうしが、ほぼ接触した状態に配置されていることを特徴とする係止片群(別紙図面一参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

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別紙図面二

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